シンセサイザー音作りの基礎|サブトラクティブ合成の仕組みを解説
サブトラクティブ合成(減算合成)はDTMでシンセサイザーを扱う上で必須の音作り手法です。オシレーター・フィルター・ADSRエンベロープ・LFOの役割を理解し、リード・パッド・ベースまで実践的な音作りをマスターしましょう。初心者向けに基礎から解説します。
サブトラクティブ合成(減算合成)は、現代の音楽制作においてもっとも広く使われているシンセサイザーの音作り手法です。DAWに付属するソフトシンセから高価なハードウェアシンセまで、その基本的な仕組みはほぼ共通しており、一度しっかりと理解しておけばあらゆるシンセに応用できます。本記事では、オシレーター・フィルター・エンベロープ・LFOの役割と使い方を順番に解説し、最後に定番サウンドの作り方レシピまで紹介します。
サブトラクティブ合成(減算合成)とは何か

音を削る彫刻のようなアプローチ
サブトラクティブ合成とは、倍音豊かな波形をオシレーターで生成し、フィルターで不要な周波数成分を削り取ることで目的の音を作り出す手法です。Native Instrumentsのサブトラクティブ合成解説では「大理石から彫刻を削り出すようなアプローチ」と表現されています。何もないところから音を積み上げていくのではなく、最初から存在する豊かな素材を削ることで形を作ります。
対義的な手法として「アディティブ合成(加算合成)」があります。加算合成は純音(サイン波)を大量に重ね合わせて複雑な音を作りますが、演算コストが高く直感的な操作が難しいという特性があります。一方サブトラクティブ合成は、オシレーター → フィルター → アンプというシンプルな信号フローで音を作れるため、初心者にも扱いやすく、すべての合成方式の土台となる考え方です(DiGiRECO シンセサイザーの基本)。
サブトラクティブ合成の歴史と代表的な機種
サブトラクティブ合成が世界的に広まったきっかけは、1964年にアメリカのロバート・モーグ博士が発表したモーグ・シンセサイザーです。当初はモジュラー型の大型機材でしたが、1970年に登場したMinimoogが小型・持ち運び可能な形にまとめられ、ポピュラー音楽にシンセサイザーが急速に普及しました(モーグ・シンセサイザー – Wikipedia)。
その後、1980年代にはRolandやKORG、YAMAHAといった日本メーカーが台頭し、Roland Juno-106(1984年)はサブトラクティブ合成の名機として今日でも高い評価を受けています。現在はソフトウェアシンセ(ソフトシンセ)にもサブトラクティブ方式が多く採用されており、DAW付属のシンセで気軽に同等の音作りが楽しめます。
年代 | 代表機種 | 特徴 |
|---|---|---|
1970年代 | Minimoog(Moog) | 持ち運び可能な初の小型サブトラクティブシンセ |
1980年代 | Roland Juno-106 | コーラスエフェクト搭載・扱いやすいUIで大ヒット |
1980年代 | Roland TB-303 | 特徴的なフィルターエンベロープでテクノ/ハウスの礎に |
現代 | Serum、Massive、Analog Lab等 | ソフトシンセとしてDAW上で同等の音作りを実現 |
オシレーター(VCO/OSC):音の源を作る

基本的な波形の種類と音の特徴
オシレーター(発振器)は、シンセサイザーの音作りの出発点となるセクションです。鍵盤を押すとオシレーターが指定された音程の波形を発振し続け、それがフィルターやアンプへと送られます。OTO×NOMAのシンセサイザー構造解説では、オシレーターを「様々な周波数特性を持つ、形の異なる波形を発振する装置」と定義しています。
波形の選択は音のキャラクターを決定する最初の判断です。主要な5種類の波形とその特徴は以下の通りです。
波形 | 倍音の特徴 | 音のイメージ | 向いているサウンド |
|---|---|---|---|
ノコギリ波(Sawtooth) | 奇数・偶数の倍音を均一に含む | ブリブリ・鋭くリッチ | リードシンセ、パッド、ストリングス系 |
矩形波(Square/Pulse) | 奇数倍音のみ含む | ファミコンサウンドのような中空な音 | ベース、木管楽器系、クラリネット風 |
三角波(Triangle) | 奇数倍音を少量含む | 柔らかくまろやか | フルート系、ソフトなリード |
サイン波(Sine) | 倍音なし(基音のみ) | 純粋・無機質 | サブベース、キックの低域補強 |
ノイズ(Noise) | 全周波数帯域に分布 | ザーという雑音 | 打楽器、風の音、ブレスエフェクト |
SONICWIREの音作り基礎知識では、「ノコギリ波は倍音を均一に含む最も基本的な波形で、様々な音作りに適しています」と説明されています。初心者は迷ったらノコギリ波から始めると、フィルターの効果が最もわかりやすく体感できます。
マルチオシレーターとデチューンで音に厚みを加える
多くのシンセサイザーには複数のオシレーターが搭載されており、それらを組み合わせることで音に厚みやキャラクターを加えられます。特に重要なテクニックが「デチューン」です。2〜3個のオシレーターのピッチをわずかにずらして重ね合わせることで、音がうねるような広がりが生まれます。EDMのスーパーソウ系リードサウンドはこのテクニックを多用しています。
- ユニゾン(Unison):同じ音程の複数OSCを重ね、デチューンを加えて厚みを出す
- オクターブ重ね:1オクターブ下のOSCを追加してベース感を強化する
- 5度重ね:完全5度上のOSCを足して音に立体感を加える
- ノイズOSC混合:わずかにノイズを混ぜてブレス感・空気感を演出する
DAWの使い方についてはDAWの選び方完全ガイド|初心者向け主要3ソフト徹底比較も参照してください。シンセサイザーはDAWと組み合わせて初めてその真価が発揮されます。
フィルター(VCF):サブトラクティブ合成の核心

フィルターの種類と使い分け
フィルターはサブトラクティブ合成においてもっとも重要なセクションです。オシレーターが生成した波形から不要な周波数成分を削り取り、音色(ティンバー)を形成します。主要なフィルタータイプは以下の4種類です。
- ローパスフィルター(LPF):カットオフ周波数以上の高域をカット。最もよく使われるタイプ。カットオフを下げると音が丸くなり暖かみが増す
- ハイパスフィルター(HPF):カットオフ周波数以下の低域をカット。音を細くシャープにしたいとき、またはロービルドアップを取り除くときに使用
- バンドパスフィルター(BPF):指定した周波数帯域のみを通過させる。独特の鼻声のようなキャラクターを生み出す
- ノッチフィルター(Band Reject):特定の周波数帯域のみをカット。ハウリングの除去やトーンシェービングに使用
DTMで最もよく使われるのはローパスフィルターです。LANDRのサブトラクティブ合成解説によると、ローパスフィルターは「高周波数成分を除去することで異なる倍音キャラクターを引き出す」とされており、カットオフ周波数を操作するだけで劇的に音色が変化します。
カットオフ周波数とレゾナンスの操作
ローパスフィルターには主に2つのコントロールがあります。
カットオフ周波数(Cutoff Frequency)は、フィルターが効き始める周波数の境界点です。値を高くすると高域が通過して明るい音になり、低くすると高域がカットされて暗くこもった音になります。ツマミを時計方向に回すほど開いていくイメージで覚えると直感的です。
レゾナンス(Resonance / Q)は、カットオフ周波数付近の周波数成分を強調するパラメーターです。レゾナンスを上げると、カットオフ周波数付近に特徴的な「ピーク」が生まれ、音が独特のキャラクターを持ちます。極端に上げると自己発振し、音程感のある電子的なサウンドになります。LANDRでは「レゾナンスはカットオフ周波数付近に『バンプ』を作り出し、音をさらに彫刻するように使える」と説明しています。
操作 | 効果 | 使用シーン |
|---|---|---|
カットオフ↑(開く) | 音が明るく、エッジが立つ | リードシンセ、アタック感の強調 |
カットオフ↓(閉じる) | 音が暗く、丸くなる | パッド、バックグラウンドシンセ |
レゾナンス↑ | カットオフ付近が強調され鋭くなる | テクノ系、ワウ効果、酸っぱいベース |
レゾナンス最大 | 自己発振・電子音 | サウンドエフェクト、ドローン |
エンベロープ(ADSR):音の時間変化を設計する
ADSRの4つのパラメーターと役割
エンベロープ(エンベロープ・ジェネレーター)は、時間の経過に伴う音のパラメーターの変化をコントロールする機能です。最も代表的なのが「ADSR」と呼ばれる4つのパラメーターで構成されるアンプリチュード(音量)エンベロープです(OTO×NOMAのADSRエンベロープ解説)。
- A(Attack / アタック):鍵盤を押してから最大音量に達するまでの時間。短いと鋭く立ち上がるパーカッシブなサウンド、長いとゆっくりフェードインするパッド系サウンドになる
- D(Decay / ディケイ):最大音量からサスティンレベルまで下降する時間。短いディケイはプラック系(弾いてすぐ減衰する)の音、長いディケイは音が徐々に落ち着く自然な響きを作る
- S(Sustain / サスティン):鍵盤を押し続けている間の持続音量レベル。A・D・Rが時間(Time)なのに対し、Sだけはレベル(Level)を指定する。ピアノは低いサスティン(ディケイ後に消える)、オルガンは最大サスティン(鍵盤を押す限り鳴り続ける)が典型例
- R(Release / リリース):鍵盤を離してから音が完全に消えるまでの時間。短いリリースは打楽器的にタイトに止まり、長いリリースはパッドのように余韻が続く
SleepFreaksDTMのエンベロープ解説では、「アタックは音の立ち上がりが決まる部分」「リリースは鍵盤を離した時の音量の残り具合(残響)を制御する」と説明されています。初心者はまずアタックとリリースの2つを理解するだけでも、音作りの幅が大きく広がります。
フィルターエンベロープで音色の動きを作る
エンベロープはアンプ(音量)だけでなく、フィルターのカットオフ周波数にも適用できます。これを「フィルターエンベロープ」と呼び、音色が時間とともにダイナミックに変化するサウンドを作り出します。
フィルターエンベロープの使い方は以下の通りです。
- フィルターのカットオフを低めに設定する(音をこもらせた状態)
- フィルターエンベロープのアマウント(Envelope Amount)をプラス方向に設定する
- アタックを短く設定すると鍵盤を押した瞬間に音が明るく開き、ディケイで暗く戻る動きが生まれる
この手法を最大限に活かしたのがRoland TB-303のベースサウンドです。TB-303特有の「ズルズル」「キュッキュッ」とした音は、フィルターエンベロープとレゾナンスを組み合わせることで生み出されており、テクノ・ハウス・アシッドベースの根幹をなしています。
また、フィルターエンベロープの値をマイナス方向(負の値)に設定すると、逆に最初は明るく始まって暗く閉じていく動きになります。実験的なサウンドデザインに役立てられます。
楽器別のADSR設定イメージ
楽器のイメージ | Attack | Decay | Sustain | Release |
|---|---|---|---|---|
ピアノ | 最短(瞬時) | 中〜長め | 低め(ほぼゼロ) | 短め |
オルガン | 最短 | なし(ゼロ) | 最大(フル) | 最短 |
ストリングスパッド | 長め(0.5〜2秒) | なし(ゼロ) | 最大(フル) | 長め(1〜3秒) |
プラックギター | 最短 | 短め | 低め | 短め |
ブラスホーン | 短め(やや立ち上がり感) | 短め | 高め | 短め |
LFO(低周波オシレーター):音に動きを加える
LFOとは何か:モジュレーションの仕組み
LFO(Low Frequency Oscillator / 低周波オシレーター)は、人間の可聴域(約20Hz)以下の低い周波数で振動するオシレーターです。Native InstrumentsのLFO解説によれば、「LFOは音声信号を直接生成するのではなく、他のパラメーターに変調をかけるモジュレーターとして機能する」とされています。LFO自体の音は聞こえませんが、接続したパラメーターを周期的に揺らすことで、音に動きやうねりを生み出します。
LFOの主なパラメーターは以下の通りです。
- Rate(レート):LFOの振動速度。低いと遅い揺れ、高いとトレモロのような速い変調になる
- Amount / Depth(アマウント):変調の深さ。大きいほど変化の幅が広くなる
- Shape(シェイプ):LFOの波形。サイン波(滑らか)・ノコギリ波(徐々に上昇してリセット)・矩形波(オン/オフ切り替え)など
- Destination(デスティネーション):どのパラメーターを変調するか。ピッチ・フィルターカットオフ・アンプリチュードなどを選択
ビブラート・トレモロ・フィルタースイープの実践
LFOを使った代表的な効果は以下の3つです。
- ビブラート:LFOをピッチ(音程)に接続する。ゆっくりとしたサイン波でLFOを掛けると、歌手や弦楽器奏者が自然に行うような音程の揺れが再現できる。シンセリードに表情を加えるときの定番テクニック
- トレモロ:LFOをアンプリチュード(音量)に接続する。音量が周期的に増減し、弦楽器のトレモロ奏法のような効果が生まれる。レートを速めるとオートワウのような感覚にもなる
- フィルタースイープ:LFOをフィルターのカットオフ周波数に接続する。カットオフが周期的に開閉するため、「ウォウウォウ」というワウペダル的なサウンドが得られる。EDMやテクノのビルドアップに頻繁に使われる手法
LFOの活用はシンセサイザーの音作りをより立体的にする重要なステップです。MIDIとの組み合わせについてはMIDIの基礎知識を完全解説|DAW初心者が知るべき規格と活用法も参照してください。MIDIモジュレーションホイール(CC#1)でLFOの深さをリアルタイムにコントロールするテクニックが解説されています。
サブトラクティブ合成で作る定番サウンドのレシピ
リードシンセの作り方
存在感のあるリードシンセは、ポップス・テクノ・EDMを問わず活躍する定番サウンドです。以下の手順で基本形を作れます。
- オシレーター:ノコギリ波を2〜3個重ね、わずかにデチューン(±5〜15セント)を加える
- フィルター:ローパスフィルターのカットオフを6〜8割程度開き、レゾナンスを少し加える(20〜30%程度)
- アンプエンベロープ:アタック最短、ディケイ短め、サスティン高め、リリース短め〜中程度
- LFO:サイン波でピッチをゆっくり変調してビブラートを加える(モジュレーションホイールで深さをコントロール)
パッドサウンドの作り方
コード感を演出するパッドは、アタックを長くしてフワッと立ち上がるのが特徴です。
- オシレーター:ノコギリ波または矩形波を2〜3個重ね、ユニゾン・デチューンで広がりを出す
- フィルター:ローパスフィルターのカットオフをやや絞り(5割程度)、フィルターエンベロープで少し開かせる
- アンプエンベロープ:アタック1〜3秒、ディケイゼロ、サスティン最大、リリース2〜4秒
- LFO:ゆっくりとしたサイン波でフィルターカットオフにわずかなモジュレーションを加えてうねりを演出
シンセベースの作り方
タイトで存在感のあるシンセベースはリズムセクションの核を担います。
- オシレーター:ノコギリ波または矩形波を1〜2個。1つをオクターブ下に設定してサブオシレーターとして活用する
- フィルター:ローパスフィルターのカットオフをやや絞り(3〜5割)、レゾナンスを中程度(30〜50%)に。フィルターエンベロープのアタックを短く設定して「プコッ」とした立ち上がりを作る
- アンプエンベロープ:アタック最短、ディケイ短め、サスティン中程度、リリース最短
- LFO:基本的には不要。必要に応じてアンプに低速のサイン波でわずかなトレモロを加える程度
自宅スタジオでのシンセベースレコーディングについてはオーディオインターフェースの選び方|自宅録音入門ガイドも参考にしてください。適切なオーディオインターフェースとモニタースピーカーがあると、低域の音作りの精度が格段に向上します。
まとめ
サブトラクティブ合成の基本から定番サウンドの作り方まで解説しました。要点を整理します。
- サブトラクティブ合成は「音を削る」発想。オシレーターで倍音豊かな波形を作り、フィルターで不要な成分を削ることで音色を形成する
- オシレーターの波形選びが音のキャラクターを決定する。ノコギリ波は最も汎用性が高く初心者の出発点として最適
- フィルターはサブトラクティブ合成の核心。カットオフとレゾナンスの組み合わせで音色の大部分が決まる
- ADSRエンベロープは音の「時間軸」をデザインする。アタックとリリースを操作するだけで音の性格が大きく変わる
- フィルターエンベロープで音色の動きを作れる。TB-303のアシッドベースはその最も有名な応用例
- LFOは音に「動き」と「表情」を加える。ビブラート・トレモロ・フィルタースイープで静的なシンセ音が生き生きとする