岩﨑大翔

跳馬の種目別難度一覧|ユルチェンコ系とツカハラ系の技術と難度を比較解説

体操競技の跳馬で世界中の選手が実施するユルチェンコ系とツカハラ系。それぞれの難度(Dスコア)を種目別に一覧で比較解説します。踏切技術の違いや歴史的背景から、2025年採点規則の改定による変化まで、体操採点の仕組みと合わせて詳しく紹介します。


体操競技の跳馬の難度(Dスコア)は、演技の得点に直結する重要な要素です。国際体操連盟(FIG)の採点規則では、跳馬の各技に固定の難度点が設定されており、より難しい技を完璧に実施するほど高得点を狙えます。現在の競技で広く実施されているのがユルチェンコ系ツカハラ系の2大系統です。本記事ではこの2系統の技術的な特徴と種目別の難度を、採点の仕組みとあわせて詳しく解説します。

跳馬における難度(Dスコア)と採点の基本的な仕組み

体操競技では演技の評価を「Dスコア(難度点)」と「Eスコア(実施点)」の合計で算出します。床運動や鉄棒などは選手が演技構成を自由に組むためDスコアが変動しますが、跳馬はDスコアが技ごとに固定されているのが特徴です(Wikipedia「跳馬」)。どの技を実施するかを申告すれば、演技の成否に関わらず固定のDスコアが付与されます。

日本体操協会が準拠するFIG採点規則では、跳馬の技は踏切方法・空中姿勢・ひねりの組み合わせによってグループ分けされています。難度を決定する主な要素は以下の3点です。

  • 体勢:かかえ込み(屈身)→ 屈伸 → 伸身の順に難度が上がる
  • ひねり数:ひねりを0.5回(半回転)増やすごとに難度が上昇する
  • 踏切系統:同じ体勢・ひねり数でも踏切の系統によって難度が異なる

採点はロイター板(踏切板)を踏み切った瞬間から開始されます。Eスコアの出発点は10.00点で、着地のふらつき・姿勢の乱れ・着手のズレなどに応じて減点されていきます。跳馬は競技の中で唯一、1技のみで演技が完結する種目という点でも特殊な位置づけにあります。

ユルチェンコ系とは:ロンダート踏切の技術と歴史

ユルチェンコ系は、ソビエト連邦(現ロシア)の体操選手ナタリア・ユルチェンコとコーチのウラジスラフ・ラストロロツキーが開発した踏切技術に由来します。1982年にモスクワで初めて国際大会で披露され、1985年世界選手権でエレナ・シュシュノワがフルツイスト版を成功させてから世界中に普及しました(Wikipedia "Yurchenko vault family")。

技術的な特徴は、助走後にロンダート(側転)でロイター板に後ろ向きで踏み込み、バック転(後転とび)のような動きで跳馬台に着手することです。進行方向とは逆向きにロイター板を踏み切るという独自の構造が、高い飛距離と回転数を生む原動力になっています。現行採点規則(2022-2024年版)ではGROUP 4に分類されています(Ponytail「難度表:跳馬」)。

女子体操ではシモーネ・バイルズ選手が2021年に実施したユルチェンコ二回宙返り(「バイルズ」)が話題となり、FIGからD6.6という史上最高の難度が与えられました(NBC Sports)。男子においても、白井健三選手が独自のひねり前手技を組み合わせた「シライ」系バリエーションを生み出し、ユルチェンコ系の可能性をさらに広げています(たこジムブログ「日本人の名前がついた跳馬技」)。

ユルチェンコ系の種目別難度(Dスコア)一覧

以下は2022-2024年版FIG採点規則に基づくユルチェンコ系の難度一覧です(Ponytail難度表より)。体勢がかかえ込みから伸身へ、ひねり数が増えるにつれてDスコアが段階的に上昇します。

技名

体勢

ひねり

Dスコア

ユルチェンコかかえ込み

かかえ込み

なし

3.00

ユルチェンコかかえ込み1回ひねり

かかえ込み

1回

3.60

ユルチェンコ屈伸

屈伸

なし

3.20

ユルチェンコ伸身

伸身

なし

3.60

ユルチェンコ伸身1回ひねり

伸身

1回

4.20

ユルチェンコ伸身1回半ひねり

伸身

1.5回

4.60

ユルチェンコ伸身2回ひねり

伸身

2回

5.00

「ユルチェンコ伸身2回ひねり」(D5.00)は現役選手が実施する最高水準の技の一つです。白井健三選手が考案した「シライ2」(伸身3回ひねり相当)はこのユルチェンコ系を発展させた超高難度技で、難度表に個別に記載されています。難度を上げるには体勢の伸展とひねり数の増加が基本方針となります。

ツカハラ系とは:1/4ひねり着手の技術と歴史

ツカハラ系は日本の塚原光男選手が生み出した技術系統です。1960年代末から1970年代にかけて国際大会で披露され、体操競技の跳馬に大きな革新をもたらしました。塚原選手はオリンピック金メダリストとして、跳馬に独自の踏切スタイルを確立したことで世界的に知られています(Spaia「跳馬の技の種類について」)。

技術的には、助走後にロイター板を正面から踏み切り、跳馬台に着手するまでの空中(前宙相)で体を1/4(90度)ひねり、後ろ向きで着手してから後方宙返りを実施するのが基本形です。ユルチェンコ系がロイター板を「後ろ向き」で踏み切るのに対し、ツカハラ系は「前向き」で踏み切る点が最大の技術的差異です(Wikipedia「跳馬」)。

また、ツカハラ系から派生したカサマツは、笠松茂選手(日本)が考案したバリエーションで、前宙相で3/4ひねりを行い、前向きに着手して前方宙返りを実施する技です。着手後の宙返り方向がツカハラと逆(前方)になるため、「前方系ツカハラ」とも呼ばれます。カサマツを含むツカハラ系は現行規則ではGROUP 3に分類されており、GFCJ(体操ファン向けガイド)の男子跳馬難度表でも確認できます。

ツカハラ系(カサマツ含む)の種目別難度一覧

以下は2022-2024年版FIG採点規則に基づくツカハラ系の難度一覧です(Ponytail難度表GFCJ男子跳馬難度表より)。

技名

体勢

ひねり

Dスコア

かかえ込みツカハラ

かかえ込み

なし

3.20

かかえ込みツカハラ1回ひねり(カサマツ)

かかえ込み

1回

3.80

かかえ込みツカハラ1回半ひねり

かかえ込み

1.5回

4.20

屈伸ツカハラ

屈伸

なし

3.40

伸身ツカハラ

伸身

なし

3.80

伸身ツカハラ1回ひねり(伸身カサマツ)

伸身

1回

4.40

伸身ツカハラ1回半ひねり

伸身

1.5回

4.80

伸身ツカハラ2回ひねり

伸身

2回

5.20

ツカハラ系の最高難度は「伸身ツカハラ2回ひねり」(D5.20)です。同じ体勢・ひねり数でユルチェンコ系と比べると、ツカハラ系は一貫して0.20点高い難度が設定されています。これは着手前の1/4ひねりという技術的難易度の差を評価したものです。

ユルチェンコ系・ツカハラ系の難度比較と2025年採点規則改定の影響

同一条件での難度比較

以下の表は、同じ体勢・ひねり数での両系統の難度差をまとめたものです(GymNasticGem「The Six Vault Families」参照)。

体勢・ひねり

ユルチェンコ系

ツカハラ系

かかえ込み・ひねりなし

3.00

3.20

+0.20

伸身・ひねりなし

3.60

3.80

+0.20

伸身・1回ひねり

4.20

4.40

+0.20

伸身・2回ひねり

5.00

5.20

+0.20

ツカハラ系はすべての同等技でユルチェンコ系より0.20点高い難度が与えられています。この差は一見わずかに見えますが、Dスコアが全体得点に直結する跳馬では無視できない要素です。

2025年版採点規則(2025-2028サイクル)の主な変更点

2025年から始まった新サイクルでは、跳馬の全グループすべてのDスコアが一律0.4点引き下げられました(The King of Gymnastics「2025年版採点規則における主な変更点(跳馬)」)。たとえば従来D3.00のユルチェンコかかえ込みは2025年版ではD2.60、D5.20の伸身ツカハラ2回ひねりはD4.80となります。

グループ分けも大幅に再編成され、ツカハラ系はGROUP 1〜3に分散し、ユルチェンコ系はGROUP 4に統一されました。また「ツカハラ5/2ひねり」と「ユルチェンコ5/2ひねり」が新たに難度表に追加されています。これらの変更は実際の競技における実施傾向と難度評価のバランスを取るための調整です。

系統選択と演技構成の考え方

選手が跳馬の系統を選ぶ際は、単純な難度の差だけでなく、助走のパターン・着手前の技術習熟度・着地の安定性も重要な判断基準になります。ユルチェンコ系は女子体操を中心に世界的に普及しており、ツカハラ系は高い着手技術を持つ男子選手に多く選択されます。Dスコアが0.20点高くてもEスコアの安定性で逆転される場合も少なくなく、演技構成では総合的な評価が必要です。跳馬の採点全般については採点規則(Code of Points)の基礎もあわせて参照してください。

岩﨑大翔
Author

岩﨑大翔 Daito Iwasaki

体操競技歴15年(全日本選手権出場)。音楽活動、AI駆動開発、体操の3つのフィールドで活動中。それぞれの専門知識と経験を活かして発信しています。

関連記事